🚲まだまだ春の沼津を巡る巡るるるるる・・・
JOUJOUKA 虜になりそうな古着屋さん
オーナー夫妻は買い付け旅行から戻ったばかり、これから新装オープンというところでお邪魔した上土商店街の古着屋さんJOUJOUKA(ジュジュカ)は、アメリカやヨーロッパの古着を扱っている。DIYで内装をしたという、まだ開店準備中のお店の中を見せていただいたが、あ、あのスカート、このコート、そこにかかっているバックが見たい・・・色や柄、デザインが心をわしずかみ、沼津のお仕事見学のはずが、お買い物モードにぐっとギアが入って困る。奥村さんご夫婦のセレクトしたアイテムには蜜のような魔法がかかっている。「お店営業始めたらまた来てくださいね。」と言われてしまうほど、抑えきれない物欲がギラギラ。適度なカオスと洗練がまじりあうディスプレイや服そのものの魅力に心惹かれるだけじゃなく、このお店にあるものを手に入れたら、まるで奥村夫妻のライフスタイルにあやかれる、あんな風に生きられるようになるんじゃないか、そういう気がしてしまうのかもしれない。ちょっと言葉にならない居心地のよさ、服愛、装うことの楽しさへの誘惑にあふれ、お洒落心が躍っている。
お店はお昼から8時まで、午前中は?例えば早朝から沼津の海や川で大好きな釣りに行ったり、海がきれいなら泳いだり。家にじっとしているのはもったいない、と、西伊豆の自然を満喫して生活しているのだそうだ。好きな事をしてすごす、仕事も大好きな古着の商売。パラダイスというのは本当に手に入るものなのか。ビジネスなのだから、きっといろいろなご苦労もあるのだろうが、沼津には天国があり、そこで楽しそうに暮らすお二人が存在する。ぜひいろいろお話ししたい…と思うのは私だけではないらしく、服を買うだけでなく立ち寄る常連の方も。ここにやってくるファンは沼津界隈だけではなく、東京からも少なくないそうだ。改装中だけに写真も撮れず、名残惜しい。次は買い物しようと心に誓って、お昼ご飯へGO!
老舗の味 ごま油が香る地魚天丼!
山海の幸が交差する港街、それはもうお昼が楽しみだった。明治37年創業の老舗天ぷら屋さん「魚ぶん」に。お、揚げてる揚げてる・・・店に近づくと、ごま油のいい香りがしてくる。予約をしてくださったので、用意万端という感じ。席につくと、とにかく揚げたてをすぐ食べてほしいという。天ぷらは時間も味のうちなのだ。海老や白身が品よく揚がったアツアツの天丼はサクサク。ゴマ油のコクにまけない魚の旨さ、キリッとしたたれがまたおいしい。あー参ったな、これ無限だといいのに。しかしどんぶりは有限なのである。もう一杯食べられそうだ。お店のしつらえには伝統を感じる、長い歴史を通して味を守ってこられた誇りと自信。そういうものもどんぶりに盛られている感じがした。朝はお寿司、昼は天ぷら、なんというお大尽ぶりだろうか。
THE BLUE WATER
狩野川の河原で自転車に乗りこみ、サイクリングが始まる。のんびりと川沿いの街を走るのはいい気分。自転車が苦手ということで、乗りやすそうな一台を一番に選ばせてもらって(ありがとうございます!本当に助かりました。)なかなか上首尾な感じだ。
JR沼津の駅を降りて街に入ると、実は目抜き通りから川はほぼ見えない。伊豆半島から北に流れ、海にむかって南にターンする川は暴れ川で、そのために街は川に背を向けて発展したという経緯があるそうだ。大きな建物が川沿いに城壁のようにならび、存在がわかるのは少し下流に至ってからということになる。しかし、ビルの切れ目から望んだ川は悠々たる流れで、暴れん坊な一面もあるのかもしれないが、眺めているだけで気持ちがゆったりする風景だ。今、新しい街づくりを進める中、花火大会を行ったり、カヌーなどのアクティビティを振興したりと、狩野川も大事な要素になっているそう。実は沼津の港はかつて駿河湾ではなく、狩野川の河原にあったという歴史も興味深い。
そんな川の魅力を楽しめるのがカフェ「THE BLUE WATER」。開放感あふれる2階のロケーションから大きな窓ごしに川を見下ろし、光や川風を感じながらくつろげる、有名な沼津のおしゃれスポット。いやいや沼津じゃなくても、ここまでスタイルのあるカフェは珍しい。時間がないので即移動とは残念すぎるおいしそうなサラダ、そして脳裏に焼き付くアップルパイ!
ポイントを巡るたびに、どうしたってもう一度沼津に来なくてはならない、という魅力的な宿題が積みあがっていくこの自転車ツアーのすごさ。企画者の思うツボなのだ。
Caféではギャラリーや店舗用のスペースを提供していて、借りることできる。今回の参加者の中には、真剣に賃貸を検討する人もいたみたい。確かに居心地のいい、それでいてすがすがしい空気が流れるいい空間だった。
ひもの工場だった?スイーツショップ
決して便利なロケーションではないが、常連さんに愛されるお菓子屋さんLOTUS SWEETSのお菓子は大きい。素材がわかるシンプルな焼き菓子が中心で、子どもも大人も食べやすいおおらかなおやつという感じ。商売を考えたらサイズも小さい方が合理的なんだろうけれど、食べる人の身になったらクッキーやシナモンロールみたいなお菓子は、一口で終わってしまってはさみしいものだ。お菓子には幸せを感じるのに必要なボリュームというのがあって、そこまで気配りのある心意気というか、温かみも受け取れるところがステキ。リピーターになるのもわかる。
元々ひもの工場だったというお店だが、機能一点張りの工場の天井の高さや奥行きを上手に生かして、DIYで作ったという温かみのある空間に。かつて地域の主要産業を担っていた年代物の工場の鉄やガラスのノスタルジックな感じと甘いお菓子の香りが不思議に調和している。大きなテーブルに座ってコーヒーをいただきつつ、買ったばかりのスイーツを齧ると、バターやナッツが味わい深い。
奥行きのある店舗だが、実はさらに奥があり、そこは住居として使っている。工場に元々あった巨大な冷蔵庫はフラメンコギターの奏者でもあるオーナーのご主人のスタジオに改装。本来は住居用に建てられたわけではない空間を、上手にアレンジして、生活の場として使いつつ、時には同じ空間がライブ会場になったり、フラメンコのダンステリアになったりもする。柔らかくて自由なライフスタイルには欧州の多国籍な街に漂うようなノマド感がある。同じようなお店を東京で維持するのは難しいかもしれない、でもここでならば、やっていける、独特の風土が沼津にはあるのかも。
水族館を運営する水産会社
港に到着、さっそく話題の「沼津港深海水族館」を運営する佐政水産の佐藤専務にお話を伺う。佐政水産は明治時代創業で、駿河湾の魚の行商からスタートし、今は魚市場に集める荷受け業務と仲買業務、沼津港の鮮魚を築地など全国の魚市場に魚を送る出荷や、干物原材料・冷凍品販売が主な事業だそうだ。水産業者として革新的なビジネスを展開してくる中、水族館をオープン。その理由は駿河湾にある。水深の深い駿河湾では、漁港に近いところで深海魚が獲れるのだそうだ。見た目はグロテスクだが、味は淡泊で食べやすい。全国でも新鮮なうちに水揚げできる港はとても少ないため、海の利を生かし深海魚をフューチャーすることにしたのだ。深海魚を水族館で生きた魚を見たり、近くの飲食店で食べたりできる港、沼津港の看板の一つになっている。行ってみたが、深海魚の観察だけではなく、駿河湾の深海のことがよくわかり博物館としても面白い。冷凍シーラカンスもインパクトがある。シーラカンスが展示されている冷凍ケースも水産加工業の技術があってこその特殊なものなのだそう。沼津は富士山から駿河湾海底まで標高差6000メートル、水族館の暗い深海水槽にただようノーチラスを見ていると、そのスケールがじわっと感じられる。この日はあいにくのお天気だったが、港から振り返り、見上げれば富士山が見えるのだから、豪快な話だ。
ベアードビール・魚市場のタップルーム
朝から歩いたり、自転車で回っていたが、あっという間に夕方になってしまう。最後に地ビールのバー「ベアード・タップルーム」にて解散となった。魚市場のすぐ前にある店ではブルワリーから運ばれてくるビールが飲めるタップルーム。種類豊富で、ダークなものからすっきりまであり、なかなか決められず、大いに迷う、どれがおすすめ?お店の人や周囲のお客さんに聞きまくり、ダークな黒ビールをチョイスした。半分思い込みだけど黒ビールならいくら呑んでも悪酔いしないから。しかしキレのいい、風味もしっかりしたここのビールは、喉で呑むより、味わう感じだ。お土産にいただいた瓶ビールは家で常温で呑んだが、その時もそう思った。いわゆる国産メーカーの生ビールはグイッとジョッキでいきたいが、ここのビールはワインのように楽しむ感じなのだろうか。頭がパチパチしそうに刺激的な半日をすごしたあとに、ビールは嬉しい。慣れない自転車でアドレナリンも相当放出していたので、実にいい気分。あとはなんとか沼津駅へたどりつき、東海道線に乗れば家路に着ける。
朝の魚市場から始まって自転車で街中を巡った12時間。沼津市役所の皆さま、企画した大内征さんや小松浩二さんのご苦労や工夫もあり、実にスムースで楽しい時間だった。大人が20人自転車でうろつくことのリスクを考えたら、何事もなく楽しく知的にも満足できるなんてファシリテーション力はすごい。これという観光名所を巡ったわけでもないけれど、沼津で働く人と知り合ったり、ビジネスについてお話しを伺えたことで、観光では知りえないインサイドを覗き見せてもらえた気がした。それゆえに愛着も生まれ、テレビや人の話で沼津の話題になったら、知らんぷりできない体になってしまったと思う。もちろん自然や名所旧跡も数多くある土地なのだが、愛着はやはり人につくものなのだろう。街の魅力は人の魅力、住んでいる人の顔が浮かぶことは大きい。歌の文句じゃないけれど、街の灯が懐かしいのは、あの人が住んでいるから…なのだ。
(text タコショウカイ モトカワマリコ)
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