僕にとってここちすとスタジオは、大人のクラブ活動みたいなもの。この先どこへ行くかわからないけど、クリエイティブな人たちと共創していくためのワクワクするフィールドなんです。

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大畑さんは「ここちすと」として「ここち」をキーワードに世の中を楽しくする活動をしている。「ここちくん」というキャラクターを作って4コマ漫画を配信したり、クラウドファンディングで絵本を作ったりしているから、ゆるキャラビジネスをしたい人なのかと思っていたら、実はとても硬いご経歴なのだ。
大学・大学院では化学、就職先でも脳科学、生理学、人間工学、スポーツ科学などのサイエンス分野に携わってきた王道の理系、しかも多忙な研究者の仕事をぬってMBAを取得し、マーケッター、企画マンとしても活躍してきたそうだ。他にもクリエイターのためのビジネスセミナーやワークショップ、そのほか大学の外部講師や、プロボノ団体の運営、フルマラソンのコーチまで…この人はいったい何をしようとしているんだろう?

ご縁あってタコショウカイに参加してくださることになり、謎に包まれた「ここちすと」の超多忙ワークライフについてお話を聞いた。

秋晴れの午前中、ここちすとスタジオでよく使うという大崎ゲートシティで待ち合わせ。広いアトリウムを見渡していたら、遠くから小走りでやってくる人が…やはり大畑さん。大きなリュックを背負って走ってきた。陸上選手として近畿大会に出場したこともあり、ホノルルマラソンやウルトラマラソンにも出場経験あるサブスリーランナーなのだ。ものすごくカジュアルなシャツとハーフパンツ、走って通勤することもあるのだそうだ。好きなのですねえ、走るのが。仕事にもそんな自由な感じで行くのだろうか。

自由な雰囲気の大畑さん

自由な雰囲気の大畑さん

「例えばクライアントに会うときはスーツを着ますが…基本服装はカジュアルにしています。長髪とかひげとか、会社員にしては自由かもしれないけど、大事なのは仕事のアウトプット、外見じゃない。そのかわり自分流を貫こうとしたら、仕事ではきちんと結果を出さないと人は認めてくれない。僕にはちょっと反骨心もあって、誰もやっていない新しいことをしたい。実現のために猪突猛進に進んだりする事もありますが、トライアンドエラーの中で様々な手段を試行錯誤する主義なんです。」

組織にいても自分のやりたいことを実現する。空気を読みまくる穏健派が大多数の日本において、なんと不敵な。まさに反逆児、起業家肌の研究者なのだ。

僕に解けない問題はない

そしてやはり少年時代から超理系だった。中学に上がると「世の中に解けない問題はない」とまで思うほど数学が抜群で、自分は天才だから数学者になろう、と考えていた。そんなわけで、地元の名門桐蔭高等学校・数理科学科に進んだ。走るのが大好きだったこともあり、部活は陸上部で活躍。1500メートル中距離で近畿大会に出るほどの俊足だった。大畑さんにとってこの高校生活は宝物のような時代で、このメンバーのままずっと生きていきたい、大学に進学したくないと本気で思ったそうだ。

「高校時代で一番印象的だったのは、一年生の時の沖縄旅行。早朝からクラスで砂浜に集まって組体操しようということになった。ビーチではしゃぎすぎて、ホテルの部屋の鍵を僕が投げちゃったんです。あ!と思ったら鍵はズボズボ砂にもぐってわからなくなっちゃった。そのときが6時、バスの出発は9時。真っ青になってクラス全員一列になって砂浜を歩いて探すけど、見つからない。朝食を摂る暇がないから、バイキングのパンを調達しておく係とか、先生に連絡して最悪ホテルに弁償みたいな交渉する係とか分担して対応しました。僕のせいでみんなに迷惑をかけてしまったけれど、チームワークで取り組んで問題を解決するって素晴らしいと思いました。結局出発2分前にクラスの女子がカギを見つけてセーフ。理系クラスは40人が2クラスの80名しかいないこともあるけど、そんな事件もあって、仲間意識が強く、団結していました。今ではすごくいい思い出です。」

高3になっても受験勉強より課外活動に一所懸命で、高3の体育祭では一人で全種目出場に挑戦したりと、高校生活を満喫したが、成績は振るわなかった。

「仲間に恵まれていたのが幸運でした。周りには京大や阪大に進学するような優秀な友人もいて、秋以降は彼らと毎日図書館で一緒に勉強をしました。わからなければすぐ教えてもらえるし、たまには気分転換にサッカーやったりして、受験勉強が楽しかったな。おかげで成績も伸びました。最終的には阪大に合格しました。みんなは奇跡と言っていたけど、僕は友人に恵まれた事と本当は実力があった事の両方の結果だと思っています(笑)」

起業家肌の研究者、水面下でチャンスを狙う

大学・大学院時代通して化学を専攻、研究者を目指した。卒業後、インテリアメーカー「東リ」に入社。そのころから「ここち」について考え始める。日本の企業は「いいもの」を作る能力が高い、しかし今や機能性の追求だけでは世界で勝負ができない。グローバルなモノづくりで世界のライバルと差別化できる方法を考えなくてはいけないと思ったからだ。日本ならではの価値とは何か、ワビサビのようなセンス、情緒や感性を反映した差別化ができれば、ほかの国の人がまね出来ないモノやサービスを生み出すことができるかもしれない。日本人の鋭い五感から生み出される「ここち」の切り口で、ビジネスのための原理原則をつかみたい。そのころ感銘を受けたダニエル・ピンクの「ハイ・コンセプト」という本にも大畑さんが考えていたことと同じようなことが書いてあった。それも自信の裏付けにもなり、大畑さんの「ここち」研究は強い気持ちからスタートしたのだそうだ。

いつでも自信にあふれ、強気な大畑さん、なんでそんなに堂々としていて前向きなのか、率直に聞いてみると意外な応えが返ってきた。

「人を巻き込むための思考錯誤を積み重ねていく中で、苦肉の策でポジティブシンキングが身についたのかも知れません。メーカーに就職してまもなく新規の研究テーマとして『ここち』の研究を立ち上げようとしたんですが。お金になるかどうか曖昧な研究テーマを会社はすぐ認めてはくれません。一人こつこつやるっていっても限界があるから、水面下で協力者を集めてすすめていくしかない。有給休暇を使って、外部のセミナーや学会に参加したり、研究者に会いにいったりして、地固めをした時期もありました。若いから社内でも人を動かすのに権力は使えないでしょう。そうなると、よくわからないけど楽しそう、なんかワクワクする、もしかしたら将来、大成するかも。という印象で周囲の人や他部署の人を巻き込むしかなかった。これをワクワクリーダーシップって呼んでるんですけどね。組織で自分のやりたいことをやるには、上司を説得して許可を仰ぐよりも、どうしたら達成できるかを考えて、責任の取れる範囲で動いてしまう方が早い場合もある。やりたい道をポジティブに信じながら何かしらの形で実行していく。少しずつでも良いので、実際に楽しみながら前に進めている姿を見せる事で周りを巻き込む、それを繰り返しているうちに、強気な印象になってしまったのかもしれません。」

仕事というのは、ネガティブなことは起こるし、意見をされることもあるが、自分のやりたいことを組織で遂行するためには、否定されても反対されてもあえて気が付かない「鈍感力」も必要なのだという。目の前のクレームとは次元の違うビジョンをもつ、感情的にならず冷静に対応する、プロジェクトの成功に焦点を絞って考え、意思決定する。ピンチの時こそ感情的になったら切り抜けられない、挑戦者ならではの実感がこもった言葉だ。

「例えば土壇場で新製品の発売が延期になったり、大きなトラブルに巻き込まれたりしても、目先の対応に心を奪われてはいけない。そういう時にも冷静に大局的に考えることでベストな判断ができる。プロジェクトやチームのメンバーとは夢に向かう情熱を共有する一方で、マネジメントの人間に対してはビジネスとしての冷静な分析や対応が必要。熱と冷静さのバランスが難しいところです。」

「ここち」研究のスペシャリストに

世の中で「ここち」研究が注目され始めたこともあり、もちろん大畑さんの努力の甲斐もあって、東リでも「ここち」が新規研究テーマとして動き出す。具体的には、クッション性のあるパネル状のフラットソファなどの新製品としての研究成果も出始めた。そんな中、大阪市が「ここち」の測定技術研究のプロジェクトを立ち上げることになった。

ネットで記録をチェック。こちらの質問になんとなくは答えないのが科学者気質

ネットで記録をチェック。こちらの質問になんとなくは答えないのが科学者気質。

「大阪市主導で人の五感を数値で把握する『ここち』の定量化、測定基準を決めるプロジェクトを始めることになって、脳科学とか疲労科学などの研究者が集められました。企業からも衣食住やセンサーのメーカーなど、一業種一社の計=9社が選定されたプロジェクトです。住担当には他の大手企業が想定されていて、東リは最初メンバーじゃなかったんです。でも学会やセミナーなどでつながりがあった他社の研究者が『研究も商品開発やマーケティングも見られる大畑くんをメンバーに入れたい』って推薦してくれたそうなんです。本当に嬉しかった。このプロジェクトは各界の専門家が集結し、いい人材と仕事ができて、貴重な経験になりました。」

科学からマーケティングへ

会社の内外で経験を積み、研究開発だけではなく新製品の企画などの仕事が増えてくると、マーケティングの分野にも関心が出てくる。社会人1年目から、週に1冊はマーケティングの専門書を読み、自分なりの勉強を重ねた。そんな中、一度転職を試みる。メーカーとは違うステージで経験を積みたいと思ったのだ。

「思い切って外資の戦略系コンサルティングファームを受けたんです。筆記試験から半年がかりの選考で4次面接まで行きましたが、最終的にはだめだった。これじゃ先に進まないし、どうしたらマーケティングやブランディングのフィールドで活躍できるだろうと考え、一念発起MBAをとることにしました。手段は変わりましたが、確実にスキルアップして前に進める選択肢の一つなので。」

その後の2年間は、会社員を続けながら、プライベートはなし、夜もほとんど寝ずにすごし、見事MBAを首席で取得した。大変だったが、マーケティング、ブランディングの比重が大きいMBAスクールで、講師陣は実務家の教員ばかり、大企業で活躍してきた他業種のエキスパートから学ぶことは多かった。

「マーケティングは化学反応に似ています。化学では、目的の物質を作るために物質と物質を反応させますが。マーケティングはターゲットに施策を働きかけてアクションを引き出す、人と施策の化学反応なんです。化学は不動の原理原則に基づいていて結果も読めてしまうけれど、マーケティングは人も社会も変わり続ける限り、同じ施策でも化学反応自体が変化し続ける。一生やるならこっちのほうが面白いし、キャリアとしては長く続けられそうだと思いました。物質も面白いけど、人間相手の方がずっと複雑で多様でやりがいがあると思うようになったんです。」

転職を機にいよいよ「ここちすとスタジオ」やや本格始動?

MBA取得からしばらくして、大畑さんは東京に転勤になる。メンバーは大畑さん一人だったが、新規事業企画のための新分野促進グループが発足し、やりたかった分野に専念できるようになった。入社以来初めて伊丹の本社を離れ、東京への異動になり生活環境も変わった。その後も新規事業の立ち上げやマネジメントで充実した企業生活を送っていたが、自分自身の新たな挑戦に踏み切るために11年近く働いた会社を退職。ブランディングを得意とするアクサムコンサルティングに活躍の場を移すことになった。

メーカー時代の「ここちすとスタジオ」の活動は、講演やワークショップ、大学の外部講師などについてもプロボノや趣味の域を出なかった。アクサムでは本業もより多忙となるが、ここちすとスタジオのメンバーと上手く協力しながら、より一層活動の幅を拡大していくという。また、そのパラレルワーカーの環境が、自分自身の大きな成長に繋がっているとのこと。

「ここちすとスタジオは、始めは「ここち」の専門家としての活動を目的としていました。生活の中で生かせるサイエンティフィックな「ここち」の情報や価値を、メディアコンテンツを通して、わかりやすく提供する場のような。例えばラジオパーソナリティの仲間と一緒にトークとイラストを組み合わせた動画を作って配信したこともありました。制作が大変で3話で終わってしまいましたが。しかし今は、科学的な知識は根底に残しながらも、少し違う方向への転換を考えているんです。「ここちすと」として、どうやったら世の中がここちよくなるかを考えたら、モノよりも重要なのは人間関係だったり、自分の希望を叶えるスキルだったりが大事なんじゃないかと思うようになったんです。

フィギュアもオリジナル制作ここちすとスタジオは『ユーモアが世界を救う』をスローガンにしています。今の日本にはユーモアが足りないって思いませんか。モノは豊かで、基本的な欲求は満たされていても、ここちいい領域までは行っていないんじゃないかと思うんです。あるときヨーロッパのカフェで注文を迷っていたら、店の人が立ったまま寝たふりのポーズをアピールしてきました。『早くしろよ、寝ちゃうよ!』ってジェスチャーしているんです。日本だとこういうしゃれっ気というか、余裕がないなあ。マニュアルに沿ったきちんとした接客はできても、温かみがないし、つまらないと感じます。なんだか楽しくない、ここちよくない。ユーモアって多様性だし、個人を表現する余裕から生まれるものです。そういう意味で日本は豊かじゃない。もっと余裕をもったほうがいい。ここちくんの4コマとか、昨年度クラウドファンディングで作った絵本も、世の中にもっと遊び心を!もっと笑おうよ、余裕を持とうよ、というメッセージをこめて作っています。」

クリエイティブな発想でワクワクするような展開、待機中。

ベビーTシャツ好評なんですよ。

ベビーTシャツ好評なんですよ。

 

2014年以降、4コマ、LINEスタンプ、絵本などのコンテンツ情報発信が中心となってきたここちすとス
タジオのプロジェクトだが、少しずつ方向転換を始めている。プロダクトでは、ここちくんのベビーTシャツが好評だ。

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繧ッ繝ゥ繧ヲ繝医y繝輔ぃ繝ウ繝・y繧」繝ウ繧ッ繧吶※繧呵」ス菴懊@縺溽オオ譛ャとりあえず来年の『ゆるキャラコンテスト2016』には出る予定です。ゆるキャラコンテストは平面だけではだめで、ちゃんと着ぐるみがいないと参加できないから、今、自分たちで『ここちくん』の着ぐるみを作っているんですよ。他にも、もう少し簡易版の着ぐるみを作って、『400メートルリレーフェスティバルin東京(着ぐるみ仮装の部)』に出場するとか。これは決勝戦に残ると400メートルリレーの日本代表チームに挑戦できるので、頑張らなきゃいけないですね(笑)。」

とはいえ、本来の目的はキャラクタービジネスではなく、ここちくんのコンテンツを通じた社会貢献。誰かを幸せにしたり、人と人とのコミュニケーションのきっかけをつくるために役立てたいということだ。

「今、一緒に活動しているクリエイターは、私自身を含め、皆さん趣味・プロボノとして参加しています。みんな楽しんで活動している訳ですが、この場を単なる楽しい場というだけではなく、新しい経験の場やクリエイター同士のコミュニティとして機能させ、メンバーにとっての活動の価値をより一層高めることも自分自身の使命。ここちすとスタジオでの活動やつながりがクリエイターの人たちの本業での活躍を広げたり、プロジェクト自体が世の中を動かす大きな事業に成長したりという事を実現していきたいです。

LINE繧ケ繧ソ繝ウ繝輔z最近気づいたんですが、僕は高校時代の文化祭や体育祭のノリが好きなんですよ。だから大人になっても何か一つのことをみんなで作るとか、努力するみたいなことがやめられないのかもしれない。もちろん本業を楽しむことが第一優先ですが、本業以外のここちすとの活動によって、日常をもっとワクワクしたものにしたい。そして今後は、他企業とのコラボや企画もさらに拡大していきたい。実益に結びつく手段も模索していきたいと思っています。」

ここちすとスタジオではこの10月以降、意外なブレイクの可能性を秘めた展開を予定しているらしい。ベンチャーキャピタルの様な企業と新たにプロジェクトを発足させるらしいんだけど・・・まだ秘密だという。なんだろうなあ、早く知りたいものです。「ユーモアが世界を救う」を旗印に、世の中の流れを変えるような面白い活動を期待してますよ!
インタビュー&PH タコショウカイ モトカワマリコ