鍼灸で人の痛みを癒やす、心やさしい業師。
風見大五郎さん （鍼灸師・訪問治療 はり灸 鍼風 代表）
風見さんは、一見ちょいワルでお洒落、サッカー大好き。軽い感じがする人だけれど、お話ししてみると義理堅い人情家、笑うと温かい人柄がよくわかる。料理人だった彼がなぜ鍼灸の道に入ったのか、気になるそのいきさつを聞いてみた。
感動から始まった３０歳スタートの鍼灸修行
モトカワ（以下M）： 風見さん本当に鍼灸師なんですね。料理人ならわかるけど、鍼灸って時代劇に出てきそうだし、イメージと違うなあって。
風見： （笑）確かに。若い頃は料理人だったんですよ。イタリアのサンセポルクロっていう、ピエロ・デッラ・フランチェスカ（ルネッサンスの画家 聖母画の巨匠）で有名なトスカーナの町で料理修行もしました。帰国後は西麻布のイタリアンレストランで働いていたんですが、仕事がきつくて腰を痛めてしまって。何件も整形外科や整骨院に行きなんとかしようといろいろ試したんですが、どうにもならなかったんです。最後、藁をも掴む思いで鍼灸をやってみたら、すっかり治ってしまった。手足やお腹を触っただけで、ストレスによる胃の疲れ・冷えが原因の腰痛だなんてことがわかるなんて、神秘的だと思いませんか。これはすごいなと思って。ピンチの自分を救ってくれた鍼灸に魅せられてしまって・・・
M： 感動のあまり方向転換しちゃったんですか。
風見： ハイ。３０歳からの一念発起です。５００万円はたいて学校に通いまして、３年かけて鍼灸師の免許を取得しました。学生時代はずっと川崎の鍼灸接骨院でアルバイトしていたんですけど、卒業後はそのままそこに就職しました。
M: きっと患者さんに評判良かったんですね、どのくらいお勤めでした？
風見： 6年くらいです。年配の方にわりと受けがよくて、８割方、年配女性の指名でした。多分話しやすかったんでしょうね。
M: なにか秘訣があるんですか？
風見： 考えられるとしたら実家が女系家族で、僕は待望の男子だったから、伯母たちに溺愛されて育ったんです。今でも母や伯母さんたちと仲が良くて、普段から年配の女性に囲まれているから、世代が上の方と話し慣れているんですよ。
M: やさしいお人柄がにじみ出ちゃうんですね、きっと。
風見： いやいや（照れ笑い）鍼灸師として必要な能力でもあります。東洋医学は患者さんの話をじっくり聞くこと。なにより問診が一番大事なんです。患者さんの物語。普段の生活、食べているもの、体のクセなどなどより多くの情報があればある程、治療の効果は上がるんです。
鍼灸だけでなく、筋肉や骨について現場で学んだ修行時代
M: 初めてのプロとしてのお仕事はどうでしたか。
風見： 鍼灸接骨院というのは、院長によっていろんな方針があります。最初の職場は痛みなどの治療より、リラクゼーション寄りでした。マッサージなどで患者さんの体に触れて、体の変化を学んだことが大きかったと思います。人の筋肉について実践的に経験を積んだ時期でした。それはそれで良かったんですが、鍼灸を施すチャンスがあまりなくて、長い間にはちょっと物足りないなあと思いはじめて。もっと鍼灸師としての仕事ができそうな鍼灸整骨院に転職しました。
M; 鍼灸やりたかったんですね、腕は試せました？
風見： かなり自由にやらせてもらえました。前院は筋肉系だったけれど、次の院長は柔道整復師で骨系の先生だったので、今度はカイロプラクティックや骨のことを勉強させてもらいました。鍼灸についてもだいぶ経験を積んで、自信もついたところで３年目くらいに、そろそろ独立しようかなと考えはじめたんです。
健康保険で受けられる訪問鍼灸「鍼風（はりかぜ）」の始まり。
M: 鍼灸院を開
かず、訪問鍼灸にしたのはどうしてですか。
風見： 日本訪問マッサージ協会が主宰する「訪問鍼灸」のセミナーに参加したことがきっかけです。具合が悪くて自分で治療院に行かれない高齢者を訪問して、はり灸で痛みの緩和や可動域を広げるマッサージ・ストレッチなどをするサービスです。脳梗塞後遺症・方麻痺・腰痛・膝が悪くて歩けない方などのケアになります。
自分の身の回りの高齢者を見ていても、80歳や90歳になると体調が悪いとか、辛いところもなにかしら出てくるものです。。僕がそばにいるから、母や伯父伯母は助けてあげられるけど、一家に一人鍼灸師がいるわけじゃないでしょ（笑）だったら、世の中には、高齢者が抱えている体のトラブルをケアする鍼灸師が必要なんじゃないかと思ったんです。 そういう意味で訪問鍼灸いいなあと。なにより伯母たちが喜んでくれるんだから、他の高齢者の方もきっと喜んでくれるんじゃないかと思って訪問鍼灸「鍼風」をオープンしました。
M: まさに天職じゃないですか。そういうサービスって今までなかった？
風見： あったけれど、鍼灸やマッサージが介護保険じゃなくて、健康保険で受けられるってことが知られていなかった。
M: それは重要？
風見： すごく重要です。要介護の高齢者の方は介護保険で入浴、買い物、掃除をしてもらいますが、生活するだけで保険点数を使ってしまう。体のケアまで回らないことが多いんです。でも健康保険が使えれば、介護保険を使わないで、腰や足が痛いとか、神経痛を緩和するとか、体の不調を改善できるでしょう。しかも１回３~500円で受けられる。
M: 介護保険なんて先の話だと思ったから、ぜんぜん知りませんでした。
風見： そうでしょう？かかりつけ医の同意書があれば、健康保険で鍼灸治療が受けられるってことをもっと世の中に知ってもらわないと。僕の場合は、目黒区で開業しているので、地域のケアマネジャーの方に悩める高齢者の方をご紹介いただいています。寝たきりだった高齢者の方が鍼灸やマッサージなどを施術することで、一人で着替えができるようになったとか、トイレに行かれるようになったり、喜んでいただけるとやりがいがあります。鍼灸で高齢者のQOL（クオリティオブライフ）を上げる。 負を解消して、余生を楽しくすごしてもらう、それが僕の事業目的なんです。
M: ちょいワルオヤジだと思ってたけど、風見さんいい人なんですね。
風見： ちょいワルですよ、本場イタリア仕込みですからね（笑）。
M: 鍼灸、いいかもしれないなあ、実は私もずっと腰痛肩こりに悩まされているんです。漢方も流行っているし、前から興味はあったのですがハードル高くて。高齢者の方でも、いざとなると鍼灸は怖いって人多いんじゃありませんか？
風見： そうなんですよね、体に針刺すとか、火をつけるとかっていうから鍼灸は怖いって人多いです。でも、鍼はプロが使えばほとんど痛みはないし、お灸はもっと手軽です。ご近所のドラッグストアで買えますよ。市販品でじんわり温まる程度でも充分効果があります。良さをもっと知ってもらえたら便利なんですけどね・・・口で説明するより、モトカワさん、一度やってみませんか？
M: え～！そうですか？どうしよう！
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